はじめに
事業計画書の作成において、多くの起業家が軽視しがちなのが「資金繰り計画」です。利益計画が黒字でも、現金の出入りが合わず資金ショートして倒産に追い込まれるケースは少なくありません。実際、創業後数年で事業が立ち行かなくなる大きな原因の一つは「資金繰りの不備」と言われています。資金繰り計画は、事業を継続し成長させるための生命線ともいえるのです。
資金繰りと利益計画の違い
まず理解すべきは、「利益」と「資金」の違いです。
- 利益計画:売上と費用を比較して「黒字か赤字か」を示す。
- 資金繰り計画:実際の現金の入出金を管理し「手元にお金が残るか」を示す。
例えば、売上を計上していても入金が3か月後なら、その間は現金が不足します。反対に、減価償却費のように利益を圧迫するが現金流出を伴わない費用もあります。したがって、利益計画だけでは資金ショートを防げず、必ず資金繰り計画を立てる必要があるのです。
資金繰り計画の基本構造
資金繰り計画は、月ごとに「入金」「出金」「差引残高」を表にまとめます。基本的な構成は次のとおりです。
- 期首現金残高(前月から繰り越された現金)
- 入金予定(売上入金、借入金、補助金・助成金など)
- 出金予定(仕入、家賃、人件費、広告費、借入返済、税金など)
- 差引残高=期首残高+入金-出金
- 期末残高(翌月に繰り越す残高)
この表を少なくとも1年分作成し、キャッシュの動きを「見える化」することがポイントです。
資金ショートを防ぐための工夫
資金繰り計画を立てる際には、次のような工夫が重要です。
- 売上入金のタイムラグを考慮する
売上が発生しても、入金までに時間差がある場合が多いです。特にBtoB取引では「月末締め翌月末払い」といった条件が一般的で、資金繰りを圧迫します。 - 固定費を正確に把握する
人件費や家賃は毎月必ず出ていく支出です。これを軽く見積もると、すぐに資金が不足します。 - 設備投資や広告投資の時期を調整する
一時的に大きな支出が発生すると、資金残高が急激に減少します。投資のタイミングを分散させることも有効です。 - 借入金返済を計画に組み込む
借入を行うと、元金返済と利息支払いが定期的に発生します。返済額を計画に入れておかないと、黒字倒産のリスクが高まります。
シナリオ別の資金繰りシミュレーション
資金繰り計画では、1つのケースだけでなく複数のシナリオを用意しておくと安心です。
- 通常シナリオ:予定どおり売上・入金が進んだ場合
- 悲観シナリオ:売上が想定の80%にとどまった場合
- 楽観シナリオ:売上が想定を上回った場合
悲観シナリオでも資金ショートしないことを示せれば、金融機関や投資家からの信頼性が高まります。
具体例:小売店の資金繰り計画(簡易版)
ある小売店の月間資金繰りを例に考えてみましょう。
- 期首残高:50万円
- 入金予定:売上入金150万円(入金は翌月)、借入金100万円
- 出金予定:仕入80万円、人件費40万円、家賃20万円、広告費10万円、返済5万円
- 差引残高:50+100-155=▲5万円
この場合、いったん資金がマイナスになる月が発生します。黒字経営でも、資金が回らず事業が続けられない典型的な例です。このように「キャッシュの谷間」を事前に把握できれば、借入や支払条件交渉で回避可能です。
資金繰り計画でよくある失敗例
- 入金タイミングを売上計上と同じにしてしまう
実際には翌月や翌々月入金であることが多いため、ズレが資金ショートを招きます。 - 借入返済を計画に入れ忘れる
利益計画には出てこない「返済額」を見落とすと、現金不足になります。 - 余裕資金を見込まない
常にギリギリの残高では、突発的な支出(設備修理や仕入増加)に耐えられません。最低でも1か月分の固定費相当は残しておきたいところです。
事業計画書に書くときの工夫
- 月別の資金繰り表を添付し、現金の流れを見える化する。
- 損益計画と連動させ、売上減少時の資金不足リスクを説明する。
- 資金不足が予想される場合の対応策(追加融資、支払条件交渉など)を明記する。
まとめ
資金繰り計画は、事業を続けるための「現金の地図」です。黒字倒産を防ぐには、利益計画とあわせて入出金のタイミングを管理し、シミュレーションでリスクに備えることが欠かせません。さらに、資金不足が見込まれる月にどう対処するかまで考えておくことで、金融機関や投資家に「安心して支援できる事業」であることを示せます。利益計画だけでなく、資金繰り計画も徹底して作り込むことが、起業成功の大きなカギとなるのです。

