はじめに
事業を継続していく上で、売上や利益がどのように推移していくかを数字で示す「損益計画」は欠かせません。資金繰り計画が“現金の流れ”を管理するのに対し、損益計画は“事業の収益性”を測るものです。金融機関や投資家にとっても、損益計画は「この事業が本当に利益を生み出せるのか」を判断するための重要な指標になります。今回は、損益計画を立てる意味と具体的な作成手順、注意点を解説します。
損益計画の目的
損益計画を立てる目的は大きく分けて3つあります。
- 収益性の確認
事業が利益を生むまでのプロセスを可視化し、損益分岐点を明らかにします。 - 経営戦略の実行可能性の検証
計画に基づき「売上目標」「経費削減目標」を設定することで、戦略が現実的かどうかを検証できます。 - 資金調達の裏付け
金融機関や投資家は「利益を生み返済や配当ができるか」を重視します。損益計画はその根拠になります。
損益計画の基本構造
損益計算書(P/L)と同じフォーマットを想定して作ります。主な構成は以下の通りです。
- 売上高:商品・サービスの販売金額。
- 売上原価:仕入や材料費など売上に直接関わる費用。
- 売上総利益(粗利):売上高 − 売上原価。
- 販売費及び一般管理費(販管費):人件費、家賃、広告宣伝費、光熱費など。
- 営業利益:売上総利益 − 販管費。
- 経常利益:営業利益 − 支払利息等。
- 当期純利益:経常利益 − 税金。
損益計画ではこれを月単位や年単位で見積もり、将来的な利益水準を示します。
作成手順
ステップ1:売上計画の策定
市場規模やターゲット顧客数を基に、販売数量と単価を掛け合わせて売上を算出します。
例:1杯500円のコーヒーを1日100杯、月25日営業すると「500円×100杯×25日=125万円」の月商になります。
ステップ2:売上原価の見積もり
商品の仕入価格や材料費を反映させます。飲食業なら食材原価率30%、小売業なら仕入率70%といった業界目安を参考にします。
ステップ3:販管費の設定
家賃、人件費、水道光熱費、通信費、広告費など、毎月固定的にかかる費用を積算します。販管費は「固定費」と「変動費」に分けて整理するとわかりやすいです。
ステップ4:利益の算出
売上総利益から販管費を差し引き、営業利益を求めます。さらに、利息や税金を考慮して最終的な当期純利益を計算します。
損益分岐点の考え方
損益計画を立てる際に欠かせないのが「損益分岐点」の計算です。損益分岐点とは、売上高が総費用をちょうどカバーし、利益がゼロになる売上水準のことです。
計算式は以下の通りです。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ (1 − 変動費率)
例えば、固定費が80万円、変動費率が40%なら、損益分岐点売上高は「80万円 ÷ (1−0.4) = 約133万円」となります。つまり、月商133万円を超えて初めて利益が出ることになります。
具体例:小売店の場合
アパレルショップを開業するケースを想定してみましょう。
- 月商目標:300万円
- 売上原価:210万円(仕入率70%)
- 粗利:90万円
- 販管費:家賃30万円、人件費40万円、広告費10万円、その他経費5万円 → 合計85万円
- 営業利益:90万円 − 85万円 = 5万円
この場合、わずかながら黒字ですが、広告費の投下や在庫調整によって利益は容易に変動します。損益計画を精緻に立てることで、どの程度の売上が必要かを明確にできます。
よくある失敗例
- 売上を過大に見積もる
「開業1年目から月商500万円達成」といった強気な数字は、金融機関にかえって不信感を与えます。 - 経費を過小に見積もる
特に人件費や広告費は実際に膨らみやすいため、余裕を持って計上しましょう。 - シナリオが単一
「楽観シナリオ」「標準シナリオ」「悲観シナリオ」を用意し、リスクに備えることが望ましいです。
損益計画を活かすための工夫
- 毎月実績と比較して差異を分析する。
- **KPI(重要業績評価指標)**を設定し、売上や利益のドライバーを把握する。
- 融資担当者に説明できる根拠資料(市場調査、顧客アンケート、過去実績など)を添付する。
まとめ
損益計画は「利益が出るかどうか」を示す事業の成否に直結する部分です。単なる数字の並びではなく、事業モデルの実現可能性を裏付けるロジックそのものです。売上・原価・経費の関係を正しく理解し、現実的な損益分岐点を押さえて計画を立てることが重要です。
数字はシビアですが、そこに経営者としての意思を込めることで、計画は単なる予測ではなく「経営を導く羅針盤」となります。
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