事業計画書の書き方 第24回:資金繰り表と損益計算書の整合性をとる方法

はじめに

事業計画書を作成する際に、必ず指摘されやすいのが「資金繰り表と損益計算書の整合性」です。どちらも数字を扱いますが、その視点と目的は異なります。損益計算書は「利益」を測るもの、資金繰り表は「現金の流れ」を追うものです。両者がバラバラだと、「この計画は机上の空論ではないか」と疑われてしまいます。特に金融機関や投資家に提出する創業計画書では、整合性の欠如は大きなマイナスポイントです。本記事では、その違いを整理しつつ、両者をどうつなげるのかを解説します。


損益計算書と資金繰り表の違い

まずは基本的な違いを押さえましょう。

  • 損益計算書(PL):一定期間の売上と費用を計上し、利益を算出する。発生主義(売上や費用が発生した時点で計上)に基づく。
  • 資金繰り表:入金・出金のタイミングを管理する。現金主義(実際に現金が動いた時点で計上)に基づく。

例えば、売上100万円が今月発生しても、回収が翌月なら損益計算書には今月計上され、資金繰り表には翌月に反映されます。ここにズレが生じるため、両者の橋渡しが必要になるのです。


整合性をとるための3つのポイント

1. 売上と入金時期を一致させる

損益計算書の売上は「発生ベース」で記載されます。一方、資金繰り表では「入金ベース」に置き換える必要があります。

  • 掛売:売上は当月、入金は翌月以降
  • 現金売上:売上=入金が同月
  • 前受金:入金が先行、売上は後月

これを整理し、売上金の入金時期を資金繰り表に正しく反映させることが重要です。

2. 費用と支払時期を分けて考える

損益計算書では「仕入費用」が発生した時点で計上されますが、支払いは翌月や翌々月というケースも多いです。資金繰り表には、その支払期日を反映させる必要があります。
例えば、仕入れが月末締め翌月払いであれば、当月の費用はPLに計上され、翌月の資金繰りに出金として反映されます。

3. 減価償却費や引当金に注意

損益計算書には「現金の動きを伴わない費用」が含まれます。代表例が減価償却費です。資金繰り表にはこれらを出金として記載しません。逆に、借入金の返済元本はPLには費用として載りませんが、資金繰り表では確実に出金として反映させる必要があります。


具体例で確認

飲食店を開業したケースを想定します。

  • 損益計算書:
    • 売上 300万円
    • 仕入 90万円
    • 人件費 100万円
    • 家賃 30万円
    • 減価償却費 10万円
    • 営業利益 70万円
  • 資金繰り表:
    • 現金売上 200万円
    • 掛売100万円(翌月入金)
    • 仕入支払い 100万円(当月は翌月分の支払いが発生)
    • 人件費 100万円
    • 家賃 30万円
    • 借入返済 20万円
    • 期末残高 50万円

このように、利益が70万円あっても、資金繰りでは50万円しか残らないことがあります。これが「利益≠現金残高」という現実です。


よくある不整合と解決策

  1. 売上と入金が混同されている
     →売掛回収条件を明記し、入金ベースに直す。
  2. 費用計上と支払期日が一致していない
     →仕入れの支払いサイトや給与支給日を表に反映させる。
  3. 減価償却や返済を誤って処理
     →「現金を伴わない費用」は資金繰り表から外し、借入返済は資金繰りに必ず入れる。

金融機関が見るポイント

銀行担当者は資金繰り表と損益計算書を照合し、次の点を確認します。

  • 利益が出ていても、返済に耐えられる資金余力があるか
  • 税金や賞与など季節的な支出を織り込んでいるか
  • 将来の資金ショートを予見できるシナリオになっているか

この整合性がきちんと取れていれば、融資判断において大きな信頼を得ることができます。


まとめ

資金繰り表と損益計算書は、見ている対象が異なるため数字がズレるのは当然です。大切なのは、その違いを理解し、矛盾なくつなげることです。売上と入金、費用と支払い、そして減価償却や借入返済といった「非対称の要素」を正しく処理することで、両者は整合性を保ちます。

創業計画書において、利益計画だけでなく資金計画をきちんと整合させることは、金融機関や投資家からの信頼を獲得する第一歩です。黒字倒産を避け、持続可能な経営を実現するために、この整合性チェックを欠かさないようにしましょう。

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この記事を書いた人

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