はじめに
多くの中小企業が、「もっとサービスを増やそう」「もっと商品を足そう」と考えます。
しかし、スモールビジネスにおいては、足し算よりも“引き算”こそが成功の鍵になります。
静岡大学名誉教授・岩崎邦彦先生は著書『引き算する勇気』の中でこう述べています。
「小さな会社が勝つためには、“やらないことを決める”勇気が必要である。」
つまり、限られた経営資源を分散させるのではなく、集中させることがブランドを強くするのです。
“なんでも屋”が失敗する理由
「お客様の要望に全部応えよう」と努力する経営者ほど、かえって苦しくなります。
なぜなら、
- 商品ラインが増えるほど在庫や仕入れコストが膨らむ
- メッセージがぼやけて“何の店かわからない”印象になる
- 社員やスタッフの負担も増え、品質が安定しなくなる
からです。
たとえば、地域の小さなカフェが「カレーも、パスタも、スイーツも」と増やした結果、
厨房が混乱し、人気メニューだった“トーストセット”の提供が遅れて常連客が離れた──
そんな事例は珍しくありません。
“減らす”ことで伝わる
一方、成功している小規模事業は、あえてメニューやサービスを絞っています。
東京の人気ベーカリー「365日」は、商品を厳選し、1つひとつに物語を持たせることでファンを増やしました。
選択肢を減らすことで、顧客は「この店はこだわっている」と感じるのです。
岩崎先生はこう語ります。
「引き算は、価値を捨てることではない。本当に大切なものを際立たせるための選択である。」
“少ない=弱い”ではなく、“絞る=強い”。
それが、スモールビジネスのマーケティングの真髄です。
“やらないこと”を決める3つの基準
1. 自社の強みと関係ないこと
第4回で見つけた「自社の強み」に関係のないことは、思い切ってやめましょう。
強みを活かさない活動は、エネルギーの浪費になります。
2. 顧客が望んでいないこと
顧客は“なんでも”を求めていません。
むしろ「この店はこれが得意」と思える方が信頼されます。
3. スタッフや自分がワクワクしないこと
心から誇りを持てないサービスは、いずれ綻びます。
「自分が好きで続けられるかどうか」も、引き算の判断基準にしましょう。
“やめる”と決めた瞬間に、ブランドが始まる
「これ以上サービスを増やさない」と決めた瞬間に、会社の軸が生まれます。
その軸が“ブランド”の正体です。
ブランドとは、ロゴでも広告でもなく、「一貫した意思」のこと。
お客様に伝わるのは「何をしているか」よりも、「何を大切にしているか」です。
引き算を通じて、自社の価値を際立たせることで、顧客の記憶に残るブランドが生まれます。
まとめ ─ “足す勇気”より“減らす勇気”を
スモールビジネスが成功するためには、以下の3つを意識することが大切です。
- やらないことを明確にする
- 強みを軸に集中する
- 一貫性を保つことでブランドを築く
岩崎先生の言葉を借りれば、
「引き算は経営の潔さであり、信念である。」
小さな会社にとって、“やめる勇気”こそが最大の戦略。
次回は「第6回:アメーラトマトに学ぶブランドづくり①」で、
“引き算”の実践から生まれた成功事例を取り上げます。
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