はじめに
事業計画書において「費用計画」は、売上予測と並ぶ重要な要素です。売上がどれだけ見込めても、費用が膨らみすぎれば事業は赤字に陥ります。逆に、費用を必要以上に削ってしまえば、販促や人材育成など将来への投資を怠り、成長が停滞してしまいます。つまり、費用計画は「利益を確保しつつ、持続的に事業を成長させるためのバランス感覚」が求められる項目です。本記事では、費用計画を立てる際の基本的な考え方と実践的な方法について解説します。
費用の種類を整理する
費用計画を立てる第一歩は、費用を大きく分類することです。一般的には次の2種類に分けて考えます。
- 固定費
売上に関わらず毎月発生する費用です。例としては、家賃、通信費、光熱費、役員報酬や正社員の人件費、リース料などが挙げられます。固定費は安定的に事業を支える基盤ですが、一度契約すると削減が難しいため、事業初期は特に慎重に設定する必要があります。 - 変動費
売上に比例して発生する費用です。仕入原価、販売手数料、広告宣伝費、外注費などが該当します。売上の増減に応じて変動するため、計画段階で「売上比率として何%」と見積もると計算しやすくなります。
この分類を行うことで、「最低限必要な固定費」と「売上拡大に応じて増える変動費」を明確に区分できます。
費用計画の立て方ステップ
- 固定費を洗い出す
まずは事業を維持するために毎月必ず必要な費用を算出します。例えば、飲食店なら家賃20万円、人件費40万円、光熱費5万円など。開業前に契約する賃貸物件や人員体制を決める際には、固定費が重くなりすぎないよう注意しましょう。 - 変動費を売上に連動させる
変動費は「売上の○%」として設定するのが基本です。例えば、物販なら仕入原価は売上の60%、ECなら広告費を売上の15%など。売上予測と連動させることで、費用と利益の見通しがリアルになります。 - 初期投資とランニングコストを分ける
設備購入費や店舗改装費などは「初期投資」として一度きりの支出です。一方、サーバー利用料やクラウドサービス料などは「ランニングコスト」に分類されます。計画書では、この区分を明確にして説明することが信頼性につながります。 - 投資と経費のバランスを考える
広告宣伝費や教育研修費などは、一見すると「削減可能な費用」に見えます。しかし、これらは将来の売上や事業拡大に直結する投資的性格を持っています。短期的に利益を追求しすぎて投資を削ると、成長の芽を摘んでしまう危険があるため注意が必要です。
費用計画でよくある失敗例
- 固定費が高すぎる
特に店舗型ビジネスでは、立地や内装にこだわりすぎて家賃が過大になるケースがあります。売上が安定する前に高額な固定費が重荷となり、資金繰りが苦しくなる典型的な失敗パターンです。 - 広告費を軽視する
「口コミで広がるはず」と広告をほとんど計上しない計画はリスクが高いです。集客に十分な投資をしなければ、売上予測との整合性が崩れてしまいます。 - 初期投資を過少見積もりする
設備費や備品費を見積もる際に「最低限で済むだろう」と考えてしまうと、後から追加投資が必要になり、資金ショートにつながることがあります。
具体例:小売店の費用計画
例えば、地域の商店街に衣料品店を出店する場合を考えてみましょう。
- 固定費
家賃:15万円/月
人件費:20万円/月(アルバイト2名)
光熱費:3万円/月
合計:38万円 - 変動費
仕入原価:売上の60%
広告宣伝費:売上の10% - 初期投資
内装工事:200万円
什器備品:50万円
この場合、毎月の売上が100万円なら、仕入60万円+広告10万円+固定費38万円=合計108万円の費用となり、赤字です。しかし売上が150万円に達すると、仕入90万円+広告15万円+固定費38万円=合計143万円となり、利益が7万円確保できます。このように、売上と費用の関係を数値化することで「損益分岐点」を明確に示せます。
事業計画書に書くときの工夫
- 固定費と変動費を分けて記載する
これにより、売上増加に応じた利益の伸びが一目で分かります。 - 損益分岐点を明示する
「月商○万円で黒字化」と書くことで、金融機関に資金繰りの見通しを示せます。 - 投資意図を説明する
広告費や研修費は「成長のための投資」であることを明記すると、単なる浪費ではなく戦略的支出として理解してもらいやすくなります。
まとめ
費用計画は「守り」と「攻め」の両面を意識することが大切です。固定費を抑えてリスクをコントロールしつつ、変動費や投資費用を戦略的に使うことで、持続的な成長を実現できます。事業計画書においては、単なる数字の羅列ではなく「なぜこの費用が必要なのか」を説明することで、金融機関や投資家からの信頼を得られるでしょう。
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