はじめに
事業計画書の中で「利益計画」は、最も注目される部分の一つです。売上が大きくても、費用がかさんで赤字なら事業は継続できません。逆に、利益が十分に確保できていれば、金融機関は返済能力を、投資家は事業の成長可能性を評価しやすくなります。利益計画は単なる数字合わせではなく、「持続的に利益を生み出す仕組み」を示すことが大切です。本記事では、利益計画を立てる際の考え方や実践的な方法について解説します。
利益の構造を理解する
利益計画を作るためには、まず利益の構造を分解して理解しておく必要があります。基本的な損益計算の流れは次のとおりです。
- 売上高
- 売上原価(仕入や製造にかかる費用)
- 売上総利益(粗利)=売上高-売上原価
- 販売費及び一般管理費(販管費)=広告宣伝費、人件費、家賃、光熱費など
- 営業利益=売上総利益-販管費
- 営業外損益(利息収入や借入利息など)
- 経常利益=営業利益+営業外損益
- 税金等
- 当期純利益
この構造を理解していれば、事業計画書で「どこで利益を確保するのか」を明確に説明できます。
粗利率を重視する
利益計画の要となるのが「粗利率」です。売上から原価を差し引いた後にどれだけ残るかで、事業の収益性が決まります。
- 小売業:粗利率30%前後
- 飲食業:粗利率60%前後(ただし原材料費と人件費のバランスが重要)
- ITサービス業:粗利率70%以上も可能
事業の性質によって粗利率は大きく異なります。計画書には、業界の平均と比較して妥当性を示すと信頼性が増します。
損益分岐点の把握
利益計画で重要なのが「損益分岐点」です。これは「売上がいくらになれば黒字化できるか」を示す数値であり、金融機関が必ずチェックするポイントです。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 粗利率
例えば、固定費が50万円/月、粗利率が40%の場合、損益分岐点は125万円となります。月商125万円を超えると利益が出る、というシナリオです。計画書では、この数値を示して「現実的に達成可能か」を説明すると説得力が増します。
利益計画の立て方ステップ
- 売上予測と費用計画を前提にする
利益は売上と費用の差でしか生まれません。したがって、まず売上予測と費用計画を作成し、それを基に利益を算出します。 - シミュレーションを行う
「売上が10%下振れした場合」「広告費を増やした場合」など、複数のシナリオを検討します。金融機関はリスク耐性を重視するため、最悪シナリオでも資金繰りが破綻しないことを示すと安心感を与えられます。 - 利益率を明示する
売上だけでなく「営業利益率○%を目指す」と書くことで、効率的な経営を行う姿勢を示せます。業界平均と比較して妥当な水準かを確認しましょう。 - 利益の使い道を説明する
得られた利益をどのように活用するのかも大切です。借入金の返済、設備投資、広告投資、人材育成など、利益の再投資先を明示すると「成長ストーリー」が描けます。
具体例:飲食店の利益計画
月商200万円を想定した飲食店の例を考えてみましょう。
- 売上高:200万円
- 原価率:35% → 原価70万円
- 粗利:130万円
- 固定費(人件費50万円、家賃20万円、光熱費10万円、その他10万円):90万円
- 営業利益:40万円
- 営業利益率:20%
この場合、月商が200万円を下回ると利益が減少します。もし月商が180万円に下がった場合、粗利は117万円、固定費90万円を差し引いて営業利益は27万円になります。こうしたシナリオを示すことで、利益計画の現実性とリスク許容度を説明できます。
利益計画でよくある失敗例
- 売上に対して利益が薄い
「売上は大きいが利益が残らない」という計画は評価されません。粗利率や利益率を意識しましょう。 - シナリオが楽観的すぎる
常に最高の売上を前提にした計画は信頼性を欠きます。必ず下振れリスクを織り込むべきです。 - 利益の使い道が不明確
利益を「オーナーの生活費」として全て消費する計画は、成長性が見えず金融機関からの評価が下がります。
事業計画書に書くときの工夫
- 粗利率や営業利益率など「率」で示すことで、規模が異なる事業と比較しやすくなる。
- 損益分岐点を明示し「月商○万円で黒字」と書くことで信頼性が高まる。
- 利益の活用先を「返済」「投資」「人材育成」など具体的に書くと、将来像が明確になる。
まとめ
利益計画は「事業の採算性」を示す最重要パートです。売上予測や費用計画と連動させながら、粗利率・損益分岐点・利益率を明確にし、さらに利益の活用先まで含めて描くことで、金融機関や投資家に「安心して支援できる事業」だと伝えられます。単なる数字の並びではなく、ストーリーを持った利益計画を描くことが、成功への第一歩となるでしょう。
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