事業計画書の書き方 第18回:資金調達計画の立て方

はじめに

どんなに優れたビジネスアイデアでも、実行するには資金が必要です。設備投資、運転資金、広告宣伝、人材採用……起業初期は支出が先行し、入金までに時間がかかるため、資金調達計画をしっかり立てなければ資金不足に陥ります。資金調達計画は「必要な資金をどのように集めるのか」を示すもので、事業計画書の中でも特に金融機関・投資家が重視する項目です。


資金調達の3つの方法

資金調達には大きく分けて3つの方法があります。

  1. 自己資金
     創業者が貯蓄や退職金を充てるケースです。金融機関は「どれだけ自分でリスクを取っているか」を厳しく見ます。自己資金がゼロでは融資は難しく、目安として全体資金の3割程度は自己資金で賄うのが望ましいとされます。
  2. 借入(デットファイナンス)
     銀行や信用金庫、日本政策金融公庫などからの融資です。返済義務がある一方、経営権を維持できるのが特徴です。審査では事業の収益性と返済可能性が重視されます。
  3. 出資(エクイティファイナンス)
     ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家などからの出資を受ける方法です。返済義務はありませんが、経営権の一部を譲る必要があり、急成長を目指すビジネスに向いています。

必要資金の算出方法

資金調達計画を立てる前に、「いくら必要か」を正確に算出することが重要です。

  1. 設備資金
     店舗の内装費、機械設備、システム開発費など、開業前に必要な一時的支出です。見積書を集めて具体的に計算します。
  2. 運転資金
     仕入れ、人件費、家賃、広告費など、事業を回すための資金です。最低でも半年から1年分を見込むと安心です。
  3. 予備資金
     突発的な支出や売上不振に備える資金。資金計画は余裕を持たせて設計するのが鉄則です。

調達手段の組み合わせ方

資金調達は一つの手段に依存せず、複数を組み合わせることでリスクを分散させられます。

  • 自己資金300万円+政策金融公庫融資500万円+助成金100万円
  • 自己資金200万円+信用金庫融資400万円+親族借入100万円

このように、自己資金をベースに外部資金を組み合わせる形が一般的です。また、自治体の補助金や助成金をうまく活用すれば自己資金の負担を軽減できます。


調達計画を立てる際のポイント

  1. 調達額は根拠を明確に
     「とりあえず1,000万円必要」といった曖昧な記載では信頼性を失います。見積書や数値計画に基づいた根拠を示すことが不可欠です。
  2. 返済計画を明示する
     融資を受ける場合は、毎月の返済額と資金繰り計画をリンクさせて提示しましょう。返済が事業に過度な負担をかけないことを示すことが大切です。
  3. 資金用途を具体的に
     「広告費」「システム開発費」といった大まかな区分だけでなく、「Web広告運用費:月5万円×6か月」など細かく記載すると説得力が増します。
  4. 助成金・補助金は確定資金として計上しない
     申請しても必ず採択されるわけではなく、入金までに時間がかかることも多いため、計画上は「加点要素」として扱うのが適切です。

事例:カフェ開業の場合

都内でカフェを開業するケースを想定してみましょう。

  • 設備資金:内装費400万円、厨房機器200万円、合計600万円
  • 運転資金:人件費20万円、家賃15万円、仕入れ10万円、広告費5万円=月50万円
  • 6か月分運転資金:300万円
  • 合計必要資金:900万円

この場合、自己資金300万円、公庫融資500万円、助成金100万円で調達計画を立てれば、無理なく開業できる構成になります。


よくある失敗例

  • 自己資金がゼロに近い状態で全額借入に頼る
     金融機関は「創業者がリスクを取っていない」と判断し、融資に慎重になります。
  • 運転資金を少なく見積もる
     開業直後は売上が安定せず、入金までの期間もあるため、資金ショートのリスクが高まります。
  • 助成金をあてにしすぎる
     採択結果や入金時期が不透明なため、確実な資金計画には含めないのが基本です。

まとめ

資金調達計画は、事業の「実行可能性」を示す重要な要素です。必要資金を的確に算出し、自己資金と外部資金をバランスよく組み合わせることで、金融機関や投資家に安心感を与えます。特に、返済計画や資金用途の具体性は信頼性を大きく高めるポイントです。起業家は「どこから、いくら、どのように調達し、どう返していくのか」を明確に伝えることで、事業の実現性を裏付けられるのです。

はじめに

事業計画書の作成において、多くの起業家が軽視しがちなのが「資金繰り計画」です。利益計画が黒字でも、現金の出入りが合わず資金ショートして倒産に追い込まれるケースは少なくありません。実際、創業後数年で事業が立ち行かなくなる大きな原因の一つは「資金繰りの不備」と言われています。資金繰り計画は、事業を継続し成長させるための生命線ともいえるのです。


資金繰りと利益計画の違い

まず理解すべきは、「利益」と「資金」の違いです。

  • 利益計画:売上と費用を比較して「黒字か赤字か」を示す。
  • 資金繰り計画:実際の現金の入出金を管理し「手元にお金が残るか」を示す。

例えば、売上を計上していても入金が3か月後なら、その間は現金が不足します。反対に、減価償却費のように利益を圧迫するが現金流出を伴わない費用もあります。したがって、利益計画だけでは資金ショートを防げず、必ず資金繰り計画を立てる必要があるのです。


資金繰り計画の基本構造

資金繰り計画は、月ごとに「入金」「出金」「差引残高」を表にまとめます。基本的な構成は次のとおりです。

  1. 期首現金残高(前月から繰り越された現金)
  2. 入金予定(売上入金、借入金、補助金・助成金など)
  3. 出金予定(仕入、家賃、人件費、広告費、借入返済、税金など)
  4. 差引残高=期首残高+入金-出金
  5. 期末残高(翌月に繰り越す残高)

この表を少なくとも1年分作成し、キャッシュの動きを「見える化」することがポイントです。


資金ショートを防ぐための工夫

資金繰り計画を立てる際には、次のような工夫が重要です。

  1. 売上入金のタイムラグを考慮する
     売上が発生しても、入金までに時間差がある場合が多いです。特にBtoB取引では「月末締め翌月末払い」といった条件が一般的で、資金繰りを圧迫します。
  2. 固定費を正確に把握する
     人件費や家賃は毎月必ず出ていく支出です。これを軽く見積もると、すぐに資金が不足します。
  3. 設備投資や広告投資の時期を調整する
     一時的に大きな支出が発生すると、資金残高が急激に減少します。投資のタイミングを分散させることも有効です。
  4. 借入金返済を計画に組み込む
     借入を行うと、元金返済と利息支払いが定期的に発生します。返済額を計画に入れておかないと、黒字倒産のリスクが高まります。

シナリオ別の資金繰りシミュレーション

資金繰り計画では、1つのケースだけでなく複数のシナリオを用意しておくと安心です。

  • 通常シナリオ:予定どおり売上・入金が進んだ場合
  • 悲観シナリオ:売上が想定の80%にとどまった場合
  • 楽観シナリオ:売上が想定を上回った場合

悲観シナリオでも資金ショートしないことを示せれば、金融機関や投資家からの信頼性が高まります。


具体例:小売店の資金繰り計画(簡易版)

ある小売店の月間資金繰りを例に考えてみましょう。

  • 期首残高:50万円
  • 入金予定:売上入金150万円(入金は翌月)、借入金100万円
  • 出金予定:仕入80万円、人件費40万円、家賃20万円、広告費10万円、返済5万円
  • 差引残高:50+100-155=▲5万円

この場合、いったん資金がマイナスになる月が発生します。黒字経営でも、資金が回らず事業が続けられない典型的な例です。このように「キャッシュの谷間」を事前に把握できれば、借入や支払条件交渉で回避可能です。


資金繰り計画でよくある失敗例

  • 入金タイミングを売上計上と同じにしてしまう
     実際には翌月や翌々月入金であることが多いため、ズレが資金ショートを招きます。
  • 借入返済を計画に入れ忘れる
     利益計画には出てこない「返済額」を見落とすと、現金不足になります。
  • 余裕資金を見込まない
     常にギリギリの残高では、突発的な支出(設備修理や仕入増加)に耐えられません。最低でも1か月分の固定費相当は残しておきたいところです。

事業計画書に書くときの工夫

  • 月別の資金繰り表を添付し、現金の流れを見える化する。
  • 損益計画と連動させ、売上減少時の資金不足リスクを説明する。
  • 資金不足が予想される場合の対応策(追加融資、支払条件交渉など)を明記する。

まとめ

資金繰り計画は、事業を続けるための「現金の地図」です。黒字倒産を防ぐには、利益計画とあわせて入出金のタイミングを管理し、シミュレーションでリスクに備えることが欠かせません。さらに、資金不足が見込まれる月にどう対処するかまで考えておくことで、金融機関や投資家に「安心して支援できる事業」であることを示せます。利益計画だけでなく、資金繰り計画も徹底して作り込むことが、起業成功の大きなカギとなるのです。

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この記事を書いた人

「好きなことを仕事にする」起業家の挑戦を応援する、東京都港区の起業支援会社です。
起業の道をともに歩むパートナーとして、豊富な実務経験と支援実績をもとに、実践的な伴走支援を行っています。
クライアントの夢の実現に向けて、専門性と創造性を活かしながら全力でサポートいたします。

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