「海外にも販路を広げたい。でも、どの国で売れるのか分からない」
中小企業の海外展開を考えるとき、最初の一歩が大きく見えてしまうことがあります。現地調査をして、展示会に出て、バイヤーを探す。費用も時間もかかるため、関心はあっても動き出せない企業は少なくありません。
先日参加した海外展開に関するセミナーで、印象に残った視点があります。海外のお客様は、すでに日本に来ているということです。
訪日客に商品を見てもらい、使い方や価格について話を聞く。そこから海外市場への仮説を立てることができます。
「どの国で売れますか?」と聞く前に
セミナーでは、お麩を海外に提案する例が紹介されました。
日本のメーカーが「味噌汁に入れるとおいしい」と説明すれば、日本人にはすぐ伝わります。しかし、お麩を知らない海外のバイヤーにとっては、現地で誰が、どのように使うのかを想像しにくいかもしれません。
そこで、商談の前に訪日客に商品を試してもらい、尋ねてみます。
「あなたの国では、どんな料理に使えそうですか」
「どんな店に置いてあれば買いますか」
もし「煮崩れしにくいので、地中海料理にも使えそう」という意見が得られれば、味噌汁とは違う用途が見えてきます。提案先を日本食店だけに限定せず、現地の料理店にも広げられるかもしれません。
もちろん、一人の意見だけで「その国で売れる」とは言えません。それでも、自社では思いつかなかった使い方を知ることは、次に調べるべきことを明確にしてくれます。
商品を見る目は、国や文化によって違う
セミナーでは、台湾からの訪日客に食品を見てもらった事例も紹介されました。ある商品のパッケージが、日本人にはそう見えなくても、台湾の方にはアルコール飲料のように映ったそうです。
作り手が伝えたいことと、買い手が受け取ることには差があります。その差は、社内で検討しているだけでは気づきにくいものです。
味だけでなく、名前、包装、説明文、用途、売場のイメージ。商品を初めて見る人に話を聞けば、こうした点にも発見があります。
大切なのは、感想を集めて終わらせないことです。「おいしいですか」という質問に加えて、「なぜそう思いましたか」「普段なら何と比べますか」と尋ねる。答えの理由まで聞くことで、商品や売り方を考える材料になります。
まずは仮説を一つ、確かめてみる
訪日客への調査を始めるなら、最初から大規模にする必要はありません。
たとえば「この商品はフランスの方には料理の材料として受け入れられるのではないか」と仮説を立てる。そして、話を聞ける機会に商品を見てもらい、想定した使い方が伝わるかを確かめます。予想と違う答えが返ってきたら、説明の仕方や対象とする顧客を見直せます。
ここで気をつけたいのは、訪日客の声がそのまま現地市場全体を代表するわけではない、という点です。旅行中の人と、現地で日常的に買い物をする人の行動は異なります。得られた声は結論ではなく、次の調査や販売テストにつなぐための手がかりとして扱うのがよいでしょう。
海外展開の入口は、必ずしも海外への出張や輸出商談だけではありません。目の前の商品について、海外のお客様がどう感じ、どう使うかを聞くことから始められます。
私が日頃の経営相談でも重視しているのは、仮説を立て、現場で確かめ、次の一手を考えることです。海外市場についても、その基本は同じだと感じました。
まず一つの商品について、誰に、何を聞くかを決める。そこから、海外展開の検討を始めてみてはいかがでしょうか。
*次回は、訪日客に「おいしいですか?」と聞くだけで終わらせず、商品改良につながる対話の仕方を考えます。

