「海外展開」という言葉から、何を思い浮かべるでしょうか。輸出先を探す、現地の展示会に出る、海外に店舗を開く。どれも方法の一つですが、最初から取り組むには負担が大きいと感じる企業もあるでしょう。
先日参加した海外展開に関するセミナーでは、訪日客を起点に海外市場を考える話がありました。日本にいる間に商品を知ってもらい、使い方や評価を聞く。そして、購入や帰国後の接点につなげていく。
この考え方なら、海外展開を遠い将来の計画としてではなく、今ある事業の延長で試せることとして捉えられます。
店頭は、販売の場であり調査の場でもある
訪日客が商品を手に取る店では、売上以外にも多くのことが分かります。
どの商品に足を止めるのか。説明を読んで理解できるのか。購入を迷う理由は何か。買った商品を自国でどう使うつもりなのか。
セミナーで紹介された文具店の事例では、訪日客が店頭のお客様の大きな割合を占め、海外での販売にもつながっていました。自分たちの店でお客様の反応を見られることは、次の販売方法を考える上で強みになります。
ただし、「外国人のお客様が増えた」で話を終わらせてしまうのは惜しいと思います。どの商品が、誰に、なぜ選ばれたのか。店頭で得た気づきを記録すれば、商品説明や品ぞろえを見直す材料になります。
店舗を持たないメーカーでも、試食会やイベントなど、実際に使う人と話せる機会を作ることはできます。大切なのは、販売した数とともに、お客様の反応を次の判断に残すことです。
旅行中の購入を、帰国後につなげられるか
訪日客が日本で商品を気に入っても、帰国後に買い直す方法が分からなければ、その購入は一度きりになります。
海外向けのネット販売は、その接点をつなぐ方法の一つです。ただ、通販サイトを用意するだけでは、旅行中に商品を買った人が再び見つけてくれるとは限りません。
まずは商品名を覚えやすくする。包装や同封物から公式サイトにたどり着けるようにする。帰国後に同じ商品を注文できるのか、届けられる地域はどこかを分かりやすく示す。こうした基本的な導線を整えることから始められます。
購入者の声を聞けば、「自分用にまた買いたい」のか、「友人に贈りたい」のかも分かります。再購入と贈答では、必要な商品構成や案内の仕方が違うはずです。
現地展開には、別の準備が要る
訪日客への販売で手応えが得られたとしても、それだけで現地出店や輸出が成功するわけではありません。旅行中の購買と、現地での日常的な購買は条件が異なります。
セミナーでは、ラーメン店の海外展開も紹介されました。現地のパートナーと組み、食材を現地で調達しながら、味や提供方法を調整しているという話です。一方、同じ都市でも立地によって売上が大きく異なる店舗の例も語られました。
現地で事業を続けるには、商品への評価に加え、立地、価格、調達、運営体制などを確かめる必要があります。訪日客からの好意的な反応は、検討を始めるきっかけにはなっても、投資判断の根拠をそれだけに任せることはできません。
だからこそ、店頭で反応を知り、帰国後の需要を確かめ、必要に応じて現地で小さく試す。段階ごとに確かめることが変わります。
目的から、進む道を選ぶ
海外市場との関わり方は一つではありません。
国内の店に来る訪日客に販売する。帰国後の注文を受ける。現地の小売店に卸す。パートナーと店舗を開く。どの方法がよいかは、企業が解決したい課題によって変わります。
国内での成長に限界を感じているのか。商品の新しい使い方を探したいのか。国内の店舗を訪れたお客様との関係を続けたいのか。まず目的を明確にし、今の人員や資金で確かめられることから始めるのが現実的です。
このシリーズでは、訪日客に聞くこと、商品改良に生かすこと、商談で使える提案に変えることを考えてきました。共通するのは、作り手の思い込みだけで進めず、お客様の反応を見て次の一手を決める姿勢です。
海外展開の第一歩は、輸出契約とは限りません。日本で出会った海外のお客様が、商品をどう見て、どう使い、もう一度買いたいと思うか。その答えを確かめるところから、自社に合った道筋を描けるのではないでしょうか。

