事業計画書の書き方第13回:価格設定の考え方

はじめに

起業や新規事業を始めるとき、多くの方が悩むのが「価格設定」です。高すぎれば顧客が離れ、安すぎれば利益が残りません。さらに価格は単なる数字ではなく、「顧客にどんな価値を届けたいか」「競合とどう差別化するか」といった経営戦略そのものを反映します。事業計画書で価格設定を明確に示すことは、金融機関や投資家に「収益の実現性」を伝えるうえでも非常に重要です。


価格設定の基本的なアプローチ

価格を決める際には、大きく3つの視点から検討します。

  1. コストベース(原価積み上げ型)
     仕入れや人件費、固定費などを積み上げ、そこに利益を上乗せする方法です。計算が明快で、最低限赤字にならない水準を把握できます。ただし「原価+利益」で決めるだけでは市場の期待や競合状況を無視するリスクがあります。
  2. 競合ベース(市場比較型)
     同業他社の価格を参考に設定する方法です。顧客が比較検討する際に違和感を持たれにくく、相場感に合った設定ができます。ただし競合に引きずられすぎると、自社の強みを打ち出せず価格競争に巻き込まれやすい点に注意が必要です。
  3. 価値ベース(顧客価値型)
     顧客が「その商品・サービスにどれだけの価値を感じるか」を基準に設定する方法です。たとえば同じコーヒー1杯でも、チェーン店なら300円、ラグジュアリーなカフェなら1,000円でも成り立つのは「体験価値」が異なるからです。この考え方を取り入れることで、価格は単なるコストの反映ではなく、自社のブランドや価値提案を示すものになります。

価格設定を失敗する典型例

価格設定は事業の成否を左右しますが、意外と失敗しやすい分野でもあります。よくある失敗例を挙げてみましょう。

  • 安売りで顧客を集めようとする
     開業当初は「安さ」で差別化しがちですが、結局は利益が残らず、次第に疲弊してしまいます。安売りに頼ると顧客も「安さ」だけに敏感になり、競合にすぐ流れてしまうリスクがあります。
  • 根拠のない高価格設定
     自分のサービスに自信を持つことは大切ですが、顧客が納得できる理由や価値を示せなければ、高価格はただの「割高感」につながります。
  • 値引きに頼りすぎる
     常に割引キャンペーンをしていると「定価で買う価値がない」と思われ、ブランドの信頼性を損ないます。

価格戦略の事例

たとえば美容室を開業したCさんは、当初「地域最安値」で顧客を集めようとしました。しかし利益が薄く、スタッフの待遇改善にも回せない状態に。そこでCさんは「丁寧なカウンセリング」「髪質改善の専門性」を打ち出し、価格を相場より2割高く設定しました。結果、客単価は上がり、リピート率も改善。いまでは「安いから」ではなく「安心できるから選ぶ」顧客層に支持されています。


事業計画書における価格設定の書き方

事業計画書で価格を示す際は、単に「1商品◯円」と記載するだけでは不十分です。以下のポイントを盛り込みましょう。

  • 価格の根拠
     「同業他社は平均3,000円だが、当社はカウンセリングを重視するため3,500円」といった説明を加える。
  • 収益シミュレーション
     「月間100人が3,500円で利用→売上35万円」といった試算を具体的に書く。
  • 価格とターゲット像の一貫性
     高級志向の顧客を狙うのか、大衆層を狙うのかによって、価格帯に整合性が必要です。

価格変更の戦略的活用

一度決めた価格を固定するのではなく、成長に合わせて見直すことも大切です。

  • 導入期:トライアル価格でハードルを下げる
  • 成長期:適正価格に引き上げ、利益確保を重視
  • 成熟期:プレミアムサービスを追加し、価格の多層化を図る

このように、価格は経営の成長ステージに応じて柔軟に戦略的に使うことができます。


まとめ

価格設定は「売上=単価×数量」の単なる要素ではなく、事業の方向性を示す重要な戦略です。コスト・競合・顧客価値の3つの視点を組み合わせ、自社の強みを活かした価格を設計することが成功へのカギとなります。事業計画書では価格の根拠と収益シミュレーションを明確に示し、金融機関や投資家に「この価格で勝負できる」と納得してもらうことが重要です。安売りに走らず、自社の価値を正しく伝えられる価格戦略を立てていきましょう。

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この記事を書いた人

「好きなことを仕事にする」起業家の挑戦を応援する、東京都港区の起業支援会社です。
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